兵庫県サッカー史ウェブサイト
兵庫サッカーの礎 世界のスーパープレーを見た 兵庫から世界へ 兵庫サッカーを語る
サッカーフォーラム in 兵庫
第一回「世界のストライカーと語る、世界のサッカー」
第二回「ピッチから見た世界のサッカー」
第三回「世界のサッカー、子供たちに夢を」
第四回「世界のサッカー、頂点に立つのは?」
第五回「世界への架け橋、サッカー!」
第六回(最終回)「ようこそ世界のサッカー、市民みんなで盛り上げよう!」

インデックスに戻る

ホームに戻る

サッカーフォーラム in 兵庫
第五回「世界への架け橋、サッカー!」
■サッカーの母国・イングランド

――さて、ここからはイングランドについてもう少し詳しくおうかがいしましょう。今回の代表はオーウェン、ベッカムら世界的スターを擁しますが、どんなチームなのでしょうか。

伊藤:エリクソンの照準は2006年のドイツ大会なので、若手選手を中心に選んでいます。したがって今大会は「もしかしたらいい所までいく・・・」という期待が込められたチームです。
 オーウェンが22歳、デビューしたてのヴァッセルは21歳、ファーディナンドは23歳と、選手の大半は25歳以下。キャプテンのベッカムでさえ26歳になるところです。若いチームというのは調子に乗れば一気に進み、逆に苦戦すればどこまでも引きずる。不安定ではありますが、最近イングランドは若手育成のシステムが非常に良く整っているので、期待できます。
 
 昔はボールを高く上げてヘディングで競り合いシュートするという「パワーサッカー」でしたが、今はツータッチ以内でボールを回し「速さ」で勝負しています。今大会ではオーウェンやへスキーら技術のある選手が、従来とは異なるイギリスサッカーを見せてくれるでしょう。
 とはいえ目標はやはり4年後のドイツ大会優勝。4年後に成熟する選手の集団、過渡期にあるチームですから期待も大きいですが、ひょっとするとひょっとするかもしれない・・・。

――イングランドのサッカーそのものの歴史を紐解いてお話いただけますか。

賀川:まずは、ここ津名町で白地に赤の十字の旗が振られたということが、画期的なことです。
 我々日本人が教科書で習うのは「英国・グレートブリテン」ですが、それがサッカーとなると話が違ってきます。サッカー発祥の地・グレートブリテンには、イングランド、スコットランドなど巨大な力をもった4協会がある。代表は各協会から派遣されるわけですから、国が4つあるのと同じ扱いになります。そうした事を日本人が知る機会になりましたね。

 日本でいう蹴球、蹴鞠など、ボールを足で蹴る遊びというのはギリシャ・ローマの時代からたくさんありましたが、1863年にロンドンで「フットボールアソシエーション」が設立され、地域や大学、クラブでそれぞれ異なっていたルールが統一されました。協会ルールで「手を使わないサッカー」と定められたフットボール、その本家がイングランドです。

 イングランドから大陸(ヨーロッパ)に渡ったサッカーは、本家に追随するために1950年以降急速に練習方法などが発達しましたが、イギリス人は「やっているうちにうまくなる」という考え方でしたから、技術的に遅れを取った時期がありました。
 それがここ最近、層が厚くなったことで急激に盛り返しています。また、異人種が入ることで技術も多彩になり、マンチェスター・ユナイテッドをはじめとする各クラブでも近代的な戦術を導入するようになりました。今や、プレミアリーグは世界最高リーグの1つ。そこから出てくる代表選手というのも、世界最高です。
 さらに、潤沢な資金を用いて世界中に網を張って選手を連れてきたことでリーグのレベルが上がり、それが代表のレベルアップにつながりました。

伊藤:どうしてイングランドでこんなにもサッカーが盛んになったかというと、人々が住んでいる家から徒歩10分圏内にサッカーやクリケットなど何でもできる広大な芝生の公園が必ずあるからです。また同様に、スタジアムも駅から歩いて10分の位置にあり、マンチェスターユナイテッドに至っては、クラブ内に駅があるほど。
 ですから、人々は小さい頃からトップクラブの選手を気楽に見にいけるし、そしてまた自分もいつでもプレーできる。この環境が英国でのサッカー人気の理由ですね。

――これからイングランドを迎える津名町の皆さんに、英国人気質についてお話ください。

伊藤:英国人が誇っていることでもありますが、しつけと規律がしっかりしています。子供たちは「何でも自ら率先してやりなさい」と教えられ、また、電車で座らない、レディファーストなどを母親にきっちりしつけられるので、指示待ち人間の日本人とは全く違います。
 それがサッカーにも反映され、イングランドのプレーは激しいけれどフェアなんです。激しいのと汚いのは別、クリーンなサッカーをします。しつけと規律とフェアプレー、それが私の見た英国人です。今回イングランドが津名町でキャンプすることで、そうしたものがここ津名町に広まることに期待しましょう。

オルブレス:ワールドカップは国際交流を拡大する絶好の機会。日本の皆さんにイングランドをもっと知ってもらうチャンスです。

 今回、具体的に何ができるかといえば、例えば、地元の皆さんと選手や監督の交流です。
 大使館では現在、サッカー協会や津名町などと協力して、チームが到着する際に交流会を開こうと検討しています。チームの到着は初戦の1週間前の5月末なので、「練習に専念すべき」との声もありますが、交流活動は選手にとっても楽しいこと。たくさんの皆さんにお目にかかりたいと思っているでしょう。



■フーリガンは文化摩擦

――さて、イングランドと言えば避けて通れない話題が1つありますね。オルブレスさんには耳が痛い話かもしれませんが、フーリガンです。フーリガンとは一体どのようなものなのでしょうか。

賀川:間違ってはいけないのは、サッカーファンがフーリガンになるのではなく、サッカーファンの中にフーリガンが含まれているということです。
 イングランドにおいてサッカーは大衆のスポーツであり、国民のスポーツ。貧しい強盗から王室関係者まで、幅広い階層の人々が楽しんでいます。とは言えやはり、テニスやラグビーと比べると、より大衆色が強い。ですから政治家は、機会あるごとにサッカー選手を訪問するんです。
 ワールドカップは、イングランドのサッカーファン、フーリガンが来る、そういうレベルではなくて、大衆の圧倒的支持を受け、政治家や王室関係者をも動かす国のフットボールが来ると考えた方が良い。

伊藤:イングランドサポーターは試合を応援するのであり、練習を応援するのではありませんから、おそらくここへは来ないでしょう。津名町を訪れるのはジャーナリストと一部の熱狂的なファンだけ。ですから、皆さんが心配されているような騒ぎは起きないと思います。
 それから、フーリガンとは何か、それをお話しておきましょう。
 フーリガンというのは、一種の文化摩擦。皆さんがフーリガンと思っていても、イギリス人の立場からすると、ただ応援しているだけなんです。イギリス人の応援というのは、90分間歌い、大声を出しつづけること。これはかなりのエネルギーを消耗します。そのために試合前、街でビールを飲み、エネルギーを蓄えているんです。

 でも、この行動を日本人が見ると「裸で、しかも入れ墨をした男がビール片手に徒党を組んで歩いてくる。取り締まれ」となる。そこで警察や機動隊が制圧に出るから騒ぎになり、彼らは「フーリガン」になってしまうのです。英国人は元来"負けない"人種ですから、向かってくるものにはひるまず戦い、そして勝とうとします。
 
 実は、イングランドにはもうフーリガンはいないんですよ。というのは、英国内では相手チームのサポーターも全く同じように騒いでいるわけですから。
 フーリガンを起こさせないためには、ある程度、彼らの行動を理解し、それに応じた対応をすべきなんです。限界をこえないところまで、好きにさせてやればいいんです。
 訪れた国々の応援の仕方を理解し、尊重しましょう。その理解をこえてしまった時に、フーリガンは起こります。つまり、フーリガンは各国の人々の意識の差、つまり文化摩擦が生むものなんです。

オルブレス:もう1つ付け加えておきたいのですが、今回は、イングランドからはるばるやってきて、10日から14日間ほど滞在するという人が多い。いわば夏休みのようなものですから、大いに盛り上がりたいはず。体と声が大きく、そのうえ顔が怖い人もいると思いますが、皆ただのサッカーファン。サッカーの話をすればきっと友達になれますので、是非声をかけてみてください。

賀川:フーリガン、フーリガンといいますが、イングランドはフーリガンの"最先進国"。イングランドはフーリガン対策が進んでいるわけですから、そういった連中は今回外に出さないでしょう。
 イングランドに限らず、ドイツもフランスも、皆体や声が大きい。向こうではそれが普通なのですから、日本人は「こういうものなのだ」と思えばいいんです。警察も、しかめ面していないで笑顔で接すれば、何もそんなに難しいことは起きませんよ。

オルブレス:世界中からサポーターが集まるワールドカップでは、言葉や気候、高水準の生活費など、様々な問題が起こるでしょう。ですから、日本の皆さんには、道案内など小さなことでも、彼らをサポートしてあげてほしいと思います。津名町の皆さんには、イングランドチームだけでなく、サポーターも歓迎してほしいですね。そして是非イングランド代表を応援して下さい。

<<Previous

■伊藤 庸夫  スポーツコンサルタント
東京都出身。京都大学法学部卒。1966年4月三菱重工業(株)に入社。80年4月同ロンドン事務所に赴任。
東芝インターナショナル(株)を経て89年10月、ロンドンにTM ITO LTD、設立。以来、エンジニアリング及びスポーツ・プロモーションのコンサルティングに携わる。サッカーとの係りは中学校以来で、高校、大学に続き三菱重工業入社後も、日本リーグ1部で2年間活躍。日本サッカー協会国際員、同欧州代表などを務め、ワールドカップ誘致キャンペーンのため尽力する。94年から3年間、サンフレッチェ広島の強化部長として、94年のサントリー・シリーズ優勝に導く。


■香山 匡史  淡路サッカー協会会長
神戸市出身。神戸医科大学卒。1954年に神戸医科大学耳鼻咽喉科学教室に入局、兵庫県立淡路病院耳鼻咽喉科の医長を経て、1969年7月、耳鼻咽喉科「香山医院」を開設。
 中学時代にサッカーを始め、兵庫高、神戸医科大(現・神戸大)で活躍。現在は淡路サッカー協会と兵庫県立兵庫高等学校サッカー部OB会の会長を務め、津名町香山サッカー場に芝生植栽を提供した。

■クレア・オルブレス  英国大使館広報担当
  サザンプトン大学卒。1997年、外務省に入省。北東アジア・太平洋局に勤務し、朝鮮半島とモンゴルを担当する。1999年よりロンドンで、その後、鎌倉にて日本語研修を受け、2000年11月より東京の大使館広報部に勤務。主にワールドカップを含むスポーツに関する報道、環境、教育、王室関連を担当。UKNOWの編集にも携わっている。

■賀川 浩 スポーツライター
1924年、神戸市に生まれる。神戸一中、神戸経済大(現・神戸大)大阪クラブなどでサッカー選手。全国大会優勝、東西対抗出場、天皇杯準優勝などの経験をもつ。1952年からスポーツ記者、1975年から10年間のサンケイスポーツ編集局長(大阪)などを経て現在フリーランスとして、現役最年長記者。
1963年の兵庫サッカー友の会、1970年の社団法人・神戸フットボールクラブの創設メンバー。ワールドカップの取材8回、ヨーロッパ選手権5回、南米選手権1回。1974年から、サッカーマガジン誌上で大会ごとに「ワールドカップの旅」を連載、さらに同誌では2002年の開催前に「マイ・フットボール・クロニクル」として日本の歩みの連載を執筆した。
著者として『釜本邦茂ストライカーの戦術と技術』、監修として「ブライアン・グランヴィルのワールドカップストーリー」(新紀元社・2002年)、その他『サッカー日本代表 世界への挑戦』(新紀元社・2002年)にも執筆している。